最高裁判所第二小法廷 昭和32年(す)223号 決定 1957年4月05日
本籍
栃木県足利郡坂西町松田町九二六番地
住居
不定
無職
事件本人
塚越潔
昭和一三年九月一一日生
住居
東京都中野区上高田一丁目七九番地
再抗告申立人
塚越武雄
右事件本人に対し昭和三二年二月二一日東京高等裁判所がした中等少年院送致決定に対する抗告棄却決定に対して、事件本人の法定代理人父塚越武雄から再抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。
主文
本件再抗告を棄却する。
理由
本件再抗告の理由は、末尾添付の再抗告申立書記載のとおりである。
所論の主張する憲法二六条一項は、「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」と規定しているのであるから、憲法は、国民の教育を受ける権利を無条件無制限に保障しているものではなく、法律の規定する範囲内においてこれを保障していることが明白である。そして教育基本法は、右憲法の規定を受けて、その三条一項において、「すべて国民は、ひとしく、その能力に応ずる教育を受ける機会を与えられなければならないものであつて、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によつて、教育上差別されない」と定め、教育を受ける機会は、すべての国民に対しその能力に応じて平等に与えらるべく、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によつて差別的待遇を受けないことを保障している。ところで、論旨の主張する、原決定の結果として、事実上、本件少年が所論主張の高等学校教育を受ける機会を失うというようなことは、右教育基本法三条一項所定の事由によつて差別的待遇を受けることに該当するものではない。換言すると、所論のような事由によつて、事実上、教育を受ける機会を喪失することは、教育基本法の右条項の保障とはなんの関係もないのである。されば、原決定は、憲法二六条一項にいう法律である前記基本法になんら違反していないのであるから、所論違憲の主張は、その前提を欠き適法な再抗告の理由とならない。
よつて、少年審判規則五三条一項、五四条、五〇条に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)